※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
「ほら、みんな! 悪い冗談を言うのはやめなさい!」
担任のぎゃんぎゃん騒ぐ声が、やけに遠くで聞こえる。
やめて。やめて。やめろ。やめろ。
今すぐ机を殴るか蹴るかしてこの騒ぎを収めたい衝動に駆られるのに、体を動かすことができない。
頭が、その後のことばかり考えてしまうからだ。
永遠に続くような悪夢に、思わず耳を塞ぎそうになった時。
「大丈夫です、先生。ひとりでも」
ユキの声が、すっと通って聞こえてきた。
一筋の声が耳に届いたのはきっと、教室にはびこる汚い声の中で、その声だけが凜として澄んでいたから。
「だけど……」
担任の躊躇うような声ののち、教室の一番後ろにある席に向かって、ユキが歩いてくる気配がした。
顔をあげられず、だけど通りすぎた後でそっとそちらに視線だけ向けると、ユキにカースト最底辺の女子――大村さんが声をかけているところだった。
その後ろで、大村さんといつも行動を共にしている伊原さんが、少し緊張したような面持ちでふたりのやりとりを見つめている。
なにを話しているのか私の席からでは聞こえないけれど、大村さんと少し話した後、ユキが笑ったのが見えた。