※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


5人でいつも一緒にいて、私はちゃんとその中に入れていると思った。それなのに。


心臓が底から冷え切っている気がする。

寒さも流れるBGMもなにも感じられない。


私は激しく暴れる心拍音から逃げるように、ゆっくりその場から離れた。


……お腹が痛くなったことにして、帰ってしまおう。

もうここにはいられない。


その場から逃げたい一心でホテルを出ると、外はいつの間にか土砂降りになっていた。


家を出た時曇っていたけれど、まさか雨が降るとは思ってもいなかったから、傘も持ち合わせていない。


雨の中、私は為す術もなくとぼとぼと歩きだした。


冬の雨は、一瞬で体を芯から冷やしてしまうほど冷たく痛い。


謝罪のメッセージを入れておかなきゃ。

そんなことを頭のどこかで考えて、でもバックからスマホを取り出すことさえ今はもう億劫で。


――そんな時だった。


「――はのんちゃん」


ザーザーと降りしきる轟音の中、柔らかい声が私の鼓膜に触れたのは。


上空から容赦なく私をめった刺しにしていた雨が、いつの間にか私の元まで届かなくなっていた。

代わりに、なにかに当たる重い雨音が私を包み込む。


この声を、私はよく知っている。


心のどこかが震える感覚を感じながら顔をあげれば、傘を差したユキが、もう一本の傘を私の頭上に傾けていた。


「どう、して……?」


無防備な声が雨粒のようにこぼれ落ちた。

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