※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
尻餅をついたままユキは俯き動かない。
「最低だな、お前」
「ここ、エンプロイドなんかが近づいていいような場所じゃねぇから」
カースト上位の男子たちがユキに暴言という暴力を振るい、それから興ざめしたというようにホテルの中に戻っていく。
まるで地面に足が貼り付いたみたいに立ち尽くす私に、わざとらしく舞香が腕を絡ませてきた。
「はのん、寒いしもう中入ろ。私のために持ってきてくれたケーキ、早く食べたーい」
「う、うん……」
舞香に引っ張られ、温かくて煌びやかなエントランスに足が向かう。
――心が泣いている。
土砂降りの大洪水で息さえつけない。
けれど頭は呆けて、中身が空っぽの人形になったみたいだ。
どうしてユキは自分が悪者になる選択ばかりするのだろう。
どうしてすべてをなげうって自分だけが傷つくのだろう。
あの時――肩を掴まれた時、耳元でユキは『突き飛ばして、けなして』と私にだけ聞こえる声で囁いた。
でもだからといって私がしたことは許されることじゃない。
ユキを突き飛ばした手の感触が消えてくれない。
私は結局なにも変われていない。
ねぇ、ユキ。
私はどうにかあなたの心に寄り添いたいのに、どうしてこうもうまくいかないのだろう。