僕の庭
「うわぁ、すごく素敵」


まとめた髪が肩からさらりと流れ、ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐった。


「……僕は何か足りない気がしてるんだが、どう思う?」


「足りないかしら? あたしは十分素敵に見えるけど」


佳穂は小さく首を傾げた。


「ふうむ……。うん、そうだ」


僕はびわの背をなでる手を止め、そっと膝から下ろした。


「君、ちょっとその木の近くに立ってくれないか」


「ええ、あたし?」


「そう。木を見上げる感じで」


佳穂の目が、愉快そうに煌めいた。


「素敵。あたし、絵の一部になれるのね」


言うが早いか、佳穂は軽やかに庭に降り立ち、桜の下に歩み寄った。


「こんな感じかしら?」


そっと、桜の花びらを手にするかのように手を上げて、桜を見上げた。


うん。そうだ。
僕のなかで、パズルのピースがかちりとはまる音がした。


「そのままで、いてくれないか」


僕は筆を握り直し、足りなかったピースを写し取る作業に取りかかった。

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