僕の庭
「……そう、そうか」


僕はとっさに何と答えてよいのか分からずに、もぐもぐと口ごもった。


「気にしないでいいのよ? 住職様は厳しかったけど親切だったし、檀家の人たちも良くしてくれたわ。
この店は住職様の口利きで雇ってもらえたんたけど、みんな優しくしてくれて、あたしすごく幸せだわ」


ね? と彼女は僕の顔を覗き込むようにして笑った。
僕はその笑顔に曖昧な頷きを返し、俯いた。


その声音はしっかりしていて、彼女の心は落ち着いているのが感じとれた。

その事は、母を失って自暴自棄になってしまっていた僕を恥いらせるには十分だった。
世界にただ一人取り残されたような喪失感、生きていく気力もない無力感。
彼女はきっとそんな弱い気持ちはとっくの昔に乗り越えていったのだろう。


ただ、僕の心に小さな何かが引っかかった。

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