僕の庭
お隣りの夫妻は、あの日以来、僕を何かと気にかけてくれていた。

ありがたい、僕がそう思うのは、ずっと先の事だった。
僕はまだ幼くて、周りのことが見えなかった。花保理を失った、その悲しさに支配されていたから。


夫妻は、ひたすらに絵を描き続ける僕に、本の挿絵の仕事を探して紹介してくれた。
僕は言われるがままに、絵を描いた。
絵を描かなければ、花保理を描く紙代すら無くなってきていたからだ。

仕事は軌道にのり、僕は生活に困らない程度の収入を得た。
それから、花保理と眺めた川縁の風景を描いた絵が、画廊のオーナーの目にとまり、僕は画家としての一歩を踏み出す事もできた。

僕の画家としての人生は、順風満帆だったのだろうと思う。


が、浜田耕介という一人の人生は、空虚なままだった。



愛する人のいない人生など、何の彩りもない。
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