僕の庭
キャンバスに最後の一筆を入れ、僕は筆を置いた。


「よし。完成、だ」


木の下で惚けたように花を眺めていた佳穂が、ぴょんと跳ねるようにして走り寄ってきた。
靴を脱ぐのももどかしそうにして僕の横からキャンバスを覗き込む。


「わあ、桜の雨ね」


庭の桜はどんどん散ってしまうけれど、絵の中は永遠に終わらない花吹雪だ。


「さあ、この絵と庭の桜を見ながらお茶にしましょうか。
この急須、使ってもいいかしら?」


「ちょっと待ってくれ」


僕は松葉杖を操って立ち上がり、台所へ向かった。
冷蔵庫の中からペットボトルを取り出し、茶箪笥の奥から瓶を取り出す。
佳穂の所へと戻ろうとしてよろめくと、佳穂が走りよってきた。

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