僕の庭
花保理の頬に張り付いた髪を、そっと一筋はらう。

「君は何故、僕の所へまた来てくれたんだろう?」


花保理は僕を見上げて笑った。


「それがよく、分からないの。あの日あたしは庭にいて、そしたら急に酷い頭痛がして倒れたの。
お隣りの真崎さんの奥さんが、駆け寄って来るのが見えたわ。
体が重たくて重たくて。その時あたし、ああ死ぬんだって分かったの」


花保理は僕のしわだらけの頬をなでた。


「死にたくない。
あたしは、耕介さんとこの庭を眺めていたい。

春は桜の木の下でお花見をして。
夏は二人でソーダ水を飲むの。
秋はもみじを眺めて枯れ葉を踏んで、
冬は初雪に二人で足跡をつけたい、そう思ったの」


僕は黙って花保理の話を聞いた。

「そこで、あたしの周りは真っ暗になって。ああ、今死んだんだって思った。
悲しかったわ。誰もいない暗闇で泣いて、泣いて。そして、どの位泣いた頃だったのかしら。
気がついたら垣根の向こうの貴方を見つめていた」


「……驚いただろう?」


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