僕の庭
庭の桜の蕾がほころびはじめ、庭はある日突然春の様相となった。



ふむ。

僕は9号のキャンバスを縁側に置き、筆を取った。

キャンバス越しに見る桜はまだ5分咲きだ。
花びらが散るその際を描きたい。



「あなた、絵描きさん?」


キャンバスの前でぼんやりタバコを吸っていると、垣根の向こうからこちらを見ている顔があった。

高校生、いやもう少し上か。

長い髪を一つにまとめた綺麗な子で、にこりと笑った右頬には、えくぼがぽくりと窪んでいた。
形のよい瞳はきらきらと輝いて、桜の花びらのような唇は、もの言いたげに薄く開いていた。


「……あ、ああ。一応な」


「すごーい。ね、見せてもらってもいいかしら?」


「まだ、下書きしかしてないけど」


「いいの、見てみたいの」


女の子は門から庭へ入って来て、縁側で靴を脱いだ。


「ふうん、あの桜の木を描くのね」


女の子はキャンバスと桜の木を見比べた。
物怖じのない子らしい。
楽しそうに下書きを眺めている。


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