僕の庭
「君、絵が好きなのか?」


「うん。と言っても、見る方ね。
あたし絵は下手なんだ」


「そうか」


肩を竦めながら屈託なく笑う女の子につられて、僕も笑った。


「えと、おじさん。この絵は、いつ頃できるの?」

「満開を少し過ぎた頃を描こうと思っている。だからもう少し先だな」


「そう。じゃあその頃にまた見に来てもいいかしら?」


「ああ、構わないよ」


女の子はにこっと笑うと、縁側から降りた。素早く靴を履く。


「あたし、佳穂。おじさんまたね」


女の子、佳穂はそう言って風のようにふんわりとスカートを翻して去って行った。



にゃー…。
部屋の奥からびわが出てきた。
この老猫が縁側まで出てくるのは珍しい。
いつもは台所のテーブルの下からあまり動かないのに。


「さあ、もう少し描こうか」


僕はびわを抱きかかえて、キャンバスへ向かった。
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