僕の庭
桜が満開に近付いた。

あの日以来、佳穂は姿を見せない。


ふんわりしたあの子は、小さな家の画家なんてもう覚えていないのだろうか。

キャンバスを前にし、垣根の向こうばかりを眺めていた僕は自嘲気味に笑った。


女の子の気紛れに振り回されてるのだろうか。
いや、僕が勝手に振り回されようとしているのか。



垣根から桜へ視線を上げる。
満開まであと数日だろうか。


早く筆を進めなければ、な。
僕はキャンバスの脇の机から鉛筆を取り上げて、描きかけの絵に向き直った。

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