僕の庭
それから僕は筆を握り、目の前のもう一つの庭に向き合った。
目を閉じて、ふう、と息を吐いて気持ちを集中させる。


しゅんしゅん……、とやかんの蒸気の音がするのみの静かな部屋。
僕は黙って筆を動かし始めた。

段々と姿を現してゆくキャンバスの向こうに佳穂がいる。
彼女も何も言わず、ただ庭と、キャンバスに向かう僕を見ていた。


ふ、と目が合うとにこりとえくぼを窪ませて笑った。
僕は笑う代わりに小さく頷くだけだったけれど、佳穂はそれでも笑みを浮かべていた。
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