No Way Back
帰ってくるのは、いつも定時過ぎた頃。
そして、遅くまで残っているらしい。
社内にいたとしても、休憩時間には消えている。
仕事中に話せば、周りの目が気になる。
むしろ、東條さんは話そうとしないだろう。
「ねぇ、果林は2人になるでしょ?それとなく聞いてくれない?」
「え?あ、イヤ、最近は2人にならないよ。そんな話し、私がしても逆効果だし」
あの飲み会以降、なんとか2人きりになることは避けられている。
残業したとしても、2人きりにならないようにみんなが帰り始めればそれに合わせて私も帰った。
それでも、同じチームなので話すことは避けることが出来ない。
「逢沢」
「はいっ」
同じチームである以上、東條さんに呼ばれることが多々ある。
もちろん、苗字で。
その時にふと思い出す。
あの時、“果林”って呼ばれていたような……。
「これ、頼むわ。あと、これOK。送っといて。それから……」