No Way Back
真面目に仕事の話しをされているのに、私の頭の中はあの時のことでいっぱいになっていた。
耳元で囁くように名前を呼ばれて、あの唇で優しくキスされて。
あの、女と違うしなやかな手で、身体中触れられて翻弄されて……。
「逢沢?」
「……え?あ、はいっ」
「はいじゃないけど。大丈夫か?」
途中から全然聞いてなかった。
まさか、仕事中にそんなことを思い出すなんて。
「すみません。大丈夫です」
「顔赤いけど、熱でもあるのか?」
「え?あ……ないです。大丈夫です」
思わず思い出してしまって、顔に出ていたらしい。
こんなの、私らしくない。
仕事中に別のことを考えるなんて。
「……うん、熱はないか」
「ちょっ、ちょっと、東條さんっ」
何を思ったのか、東條さんは立ち上がって私のおでこに自分の手を当てた。
イヤ、ここ会社。
人がいっぱいいて、みんな見ている。
「だ、大丈夫ですからっ」
「逢沢がボーッとしてるなんて珍しいから、心配にもなる。無理すんなよ」