No Way Back



真面目に仕事の話しをされているのに、私の頭の中はあの時のことでいっぱいになっていた。

耳元で囁くように名前を呼ばれて、あの唇で優しくキスされて。

あの、女と違うしなやかな手で、身体中触れられて翻弄されて……。


「逢沢?」

「……え?あ、はいっ」

「はいじゃないけど。大丈夫か?」


途中から全然聞いてなかった。

まさか、仕事中にそんなことを思い出すなんて。


「すみません。大丈夫です」

「顔赤いけど、熱でもあるのか?」

「え?あ……ないです。大丈夫です」


思わず思い出してしまって、顔に出ていたらしい。

こんなの、私らしくない。

仕事中に別のことを考えるなんて。


「……うん、熱はないか」

「ちょっ、ちょっと、東條さんっ」


何を思ったのか、東條さんは立ち上がって私のおでこに自分の手を当てた。

イヤ、ここ会社。

人がいっぱいいて、みんな見ている。


「だ、大丈夫ですからっ」

「逢沢がボーッとしてるなんて珍しいから、心配にもなる。無理すんなよ」




< 22 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop