キンダーガーテン五      ~ここが居場所~
「それではここでお祝いメッセージを頂きたいと思います。
尋ちゃんには、樹君と遥ちゃんからって言ってたんだけど。
今日はスペシャルゲストに来て頂いたので……
二人からのメッセージは、個人的に聞いてね!」

先生の冗談を交えての司会にクスクス笑う会場の中。

尋ちゃんだけは、誰だか分からないスペシャルゲストに緊張している。

「それでは宮崎さん前にお願いします。
尋ちゃん、この方を覚えてる?」

先生の質問に

過去の記憶を引き出そうと一生懸命の尋ちゃん。

でも、いくら記憶力の良い尋ちゃんでも思い出せないらしくて………

静かに首を振って「すみません。」と謝っている。

「いいえ。
覚えてなくて当然なので。」そう笑顔で答えた宮崎さんが話し始める。

「和也さん、千尋さん。
ご結婚おめでとうございます。
先ほど悠人さんから『スペシャル』なんて紹介して頂きましたが………
本当のスペシャルは、千尋さんです。
私が千尋さんとお会いしたのは、一昨年の夏です。」

そこまで話すと「あっ!」と声をあげる尋ちゃん。

「思い出して頂けましたか?
私は、駅で体調を崩し倒れてしまったんです。
偶然階段にいらした千尋さんが腕を引いて下さり
落下せずに済みました。
ただ、千尋さんは落ちてしまい骨折されたのです。
私は意識がないまま病院に運ばれたのですが………。
後で聞いた話しによると
落下した千尋さんは
それでも手にしていた携帯で救急車を呼んで下さったとか………。
私の病気は脳梗塞でした。
後少し遅ければ、命が危なかったと言われました。
千尋さんに命を拾って頂いたのです。
直ぐにお礼を言うつもりでしたが………。
千尋さん家族は、お留守が続きなかなかお会いできないまま
月日が過ぎてしまいました。
偶然ご近所の方に
お姉さんが住まわれている事と千尋さんがご結婚される事を聞き
お姉さんにお手紙を出して、今日ここでお礼を言うチャンスを頂きました。
本当は、こんな晴れがましい席にお邪魔するのは気が引けたのですが……。
唯さんに
『娘は、ちゃんと育ちました。
良い子に育ちましたよ。
胸を張って生きていって下さい。』と両親に伝えたいので
お話しして下さいと言われて………お邪魔しました。
千尋さんは、本当に素晴らしい方です。
人を思いやる、優しさがあります。
私が言わなくても………ご両親が一番知っていらっしゃいますよね?
千尋さん、おめでとうございます。
今のまま、まっすぐに綺麗な心で………
和也さんと幸せになって下さい。」

宮崎さんにお願いして良かった。

お父さん達……………嬉しそう。

尋ちゃんの優しさが、会場中に広がって唯も幸せになっていた頃…………。
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