白い闇
彼女とは、 昨日リフトで出会った。

ゲレンデの第三リフトに乗った時だ。
険しい山頂まで行くリフト。




ペアリフトなので、何度か白いスキーウェアを着た
彼女と一緒になった。
3回目に一緒になった時、話しかけた。
「今日はコンデション悪いですね」
「ええ、そうですね。でも、慣れてるから…」
「滑るの上手だけど、よくここに来るのですか?」
「ええ、このスキー場のロッジでバイトしてるんで
空き時間によくここを滑るんです、このあたりの事は
何でも知ってますよ」
「へえー、だったら上手いわけだ」
「ありがとうございます、昔はへたっぴぃだったんですよ」
「誰かに教えてもらったとか?」
「ええ、昔の彼に…」
リフトは終点に到着した。

軽く会釈をして別々のコースを滑る。
白いスキーウェアにワンレングスの髪がよく似合う。

リフトも止まり、最後の滑降を終えた。




宿泊してる「ケルン」という名前のロッジの
食堂で夕食を頼んだ。
オーダーを取りにきてくれたのは、
昼、リフトで一緒だった彼女だ。
そういえば、ロッジでバイトしていると言ってた。

地元産の牛肉を使ってるという
「高穂高原牛ハンバーグセット」と生ビールをオーダーした。
今時珍しいだるま型ストーブをガンガンに焚いて、

暑いくらいなので、ビールがすごく旨い。


彼女が食事を持ってきてくれたとき、軽く話しかけた。
「どうしてここでバイトを?」
「スキーを死ぬほどできるから」と、彼女。
「お仲間とご一緒ですか?」と逆にに質問される。
「いや、一人で」と僕。
一人で泊まりでスキーに来るなんて、
かなり珍しいケースだろう。
「そうですか…」
彼女は静かに微笑んで、去っていった。


僕はいわゆる派遣切りで職を失った。
一応夢を持って小さな劇団に所属している。
だが、劇団の仕事はほとんどない。
端役すら、なかなか廻ってこない。
生活のために派遣の仕事に就いていた。

しかし、その仕事を失ったので、
将来のことも考えたいと一人旅
と、いうか一人スキーに出た。




夢と現実の両立はなかなか難しい。
齢を重ねるあせりだけがつのる。

眠りかけの頭に、あれこれと将来の不安が襲ってきた。
現実から逃げるために、こんなとこまで来たのに、
それは無駄だったようだ。
将来や、今やるべきことの明確な答えが
見つからないまま、昼間の疲れからか
睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまった。




翌朝、カーテンの隙間から射す陽で
目が覚めた。
7時30分。
スキー客としては遅い方だろう。
また、あの食堂に朝食を食べに行く。
彼女がいるのをちょっぴり期待していた。
でも、彼女の姿は見当たらず、
中年のおばさんが朝食を持ってきてくれた。


劇団、安定した収入、矛盾、結婚…。
昨夜寝る前に悩まされたことが
喉の奥に小骨が刺さったような不快感をもたらす。
でも、外を見ると今日は晴天だ。
抜けるような青い空、白いゲレンデが銀色に
光っている。
東京に帰っても、仕事はない…。
そんな不安を振り払って、スキーウェアを身に付け
ゲレンデに出た。




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ゲレンデの第三リフトに乗った時だ。
険しい山頂まで行くリフト。




ペアリフトなので、何度か白いスキーウェアを着た
彼女と一緒になった。
3回目に一緒になった時、話しかけた。
「今日はコンデション悪いですね」
「ええ、そうですね。でも、慣れてるから…」
「滑るの上手だけど、よくここに来るのですか?」
「ええ、このスキー場のロッジでバイトしてるんで
空き時間によくここを滑るんです、このあたりの事は
何でも知ってますよ」
「へえー、だったら上手いわけだ」
「ありがとうございます、昔はへたっぴぃだったんですよ」
「誰かに教えてもらったとか?」
「ええ、昔の彼に…」
リフトは終点に到着した。

軽く会釈をして別々のコースを滑る。
白いスキーウェアにワンレングスの髪がよく似合う。

リフトも止まり、最後の滑降を終えた。




宿泊してる「ケルン」という名前のロッジの
食堂で夕食を頼んだ。
オーダーを取りにきてくれたのは、
昼、リフトで一緒だった彼女だ。
そういえば、ロッジでバイトしていると言ってた。

地元産の牛肉を使ってるという
「高穂高原牛ハンバーグセット」と生ビールをオーダーした。
今時珍しいだるま型ストーブをガンガンに焚いて、

暑いくらいなので、ビールがすごく旨い。


彼女が食事を持ってきてくれたとき、軽く話しかけた。
「どうしてここでバイトを?」
「スキーを死ぬほどできるから」と、彼女。
「お仲間とご一緒ですか?」と逆にに質問される。
「いや、一人で」と僕。
一人で泊まりでスキーに来るなんて、
かなり珍しいケースだろう。
「そうですか…」
彼女は静かに微笑んで、去っていった。


僕はいわゆる派遣切りで職を失った。
一応夢を持って小さな劇団に所属している。
だが、劇団の仕事はほとんどない。
端役すら、なかなか廻ってこない。
生活のために派遣の仕事に就いていた。

しかし、その仕事を失ったので、
将来のことも考えたいと一人旅
と、いうか一人スキーに出た。




夢と現実の両立はなかなか難しい。
齢を重ねるあせりだけがつのる。

眠りかけの頭に、あれこれと将来の不安が襲ってきた。
現実から逃げるために、こんなとこまで来たのに、
それは無駄だったようだ。
将来や、今やるべきことの明確な答えが
見つからないまま、昼間の疲れからか
睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまった。




翌朝、カーテンの隙間から射す陽で
目が覚めた。
7時30分。
スキー客としては遅い方だろう。
また、あの食堂に朝食を食べに行く。
彼女がいるのをちょっぴり期待していた。
でも、彼女の姿は見当たらず、
中年のおばさんが朝食を持ってきてくれた。


劇団、安定した収入、矛盾、結婚…。
昨夜寝る前に悩まされたことが
喉の奥に小骨が刺さったような不快感をもたらす。
でも、外を見ると今日は晴天だ。
抜けるような青い空、白いゲレンデが銀色に
光っている。
東京に帰っても、仕事はない…。
そんな不安を振り払って、スキーウェアを身に付け
ゲレンデに出た。




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