ウソキオ 〜 ウソのキオク喪失から始まる同棲生活〜
7、 キスから先は初めてだよ
カイは身体を起こし、 ベッドの上で胡座をかいて座ると、 口元に手を当てて考え込んだ。
糸もそれに合わせるようにシーツで前を隠して正座をし、 カイの返事を待つ。
カイ 「糸…… 俺も一応22歳の男なんだよ。 その俺と同じベッドで寝るって意味を分かって言ってるの? 」
糸 「…… はい」
カイの目を見つめてコクリと頷く。
カイ 「糸は…… 俺のことが好きなの? 」
糸 「はい」
迷わず即答した糸に、 カイは険しい目を向ける。
カイ 「糸は俺のことを覚えてないんだよね? 初詣の後からの3ヶ月弱で、 抱かれてもいいと思えるほど俺のことを好きになったの? 俺のどこを? いつ? どんなタイミングで?! 」
矢継ぎ早な質問に、 言葉を失う。
糸 ( 違う! ずっとずっと好きだった)
私が問題を解くまで急かさずに待ってくれるところも、 私が質問すると『んっ? 』って言いながら瞳を覗き込んでくるところも、 髪を搔き上げる仕草も、 私の頭をポンポンと撫でる手も、 笑うとちょっとだけ下がる目尻も……。
全部大好きで、 好きで仕方なくて…… 告白して失恋して、 なのに未練がましくカイの優しさにつけ込んで、 嘘つきなままで同棲生活を続けて……。
糸は自分が情けなくて、 カイに申し訳なくて、 いたたまれない気持ちになった。
糸 ( 今度こそカイに好きになってもらおうって決めてここに来たのに、 まだ私は何も出来ていない…… )
糸は膝に置いた手をギュッと握りしめると、 カイの目を真っ直ぐに見つめた。
糸 「好きだよ。 私が問題を解けなくて困っていると、 黙って参考書にトンって中指を置いて公式を指差すでしょ? あの時の中指が好き。 私が淹れたコーヒーを一口飲んでから満足げに目を細めるところも、 ちょっと口角が上がるところも好き。 私の頭をポンポンってしてくれると、 触れられたところから、 ぽおって暖かいものが流れ込んでくるみたいで幸せな気持ちになれる。 それから…… 」
カイ 「分かった! 分かったから…… ちょっと待って」
カイは右手で口元を押さえると、 顔を赤くして俯いている。
糸 「…… カイ? 」
カイ 「ヤバイ…… 心臓を射抜かれた」
糸 「えっ? 」
カイ 「嬉しすぎて暴走しそうだってことだよっ! 」
そう言うなりカイは、 糸の頭に手を回してグイッと引き寄せると、 そのまま唇を合わせて来た。
糸 (あっ…… )
いきなり口内に舌を差し込まれ、 激しく内側を舐められると、 背筋を伝って足先までゾクリとした感覚が走った。
どうすればいいか分からなかったけれど、 自分もカイの唇に動きを合わせ、 恐る恐る舌を伸ばしてみたら、 ザラッとした感覚と共に、 舌先が絡まった。
カイ 「ふっ…… はぁ…… 」
途端にカイの呼吸が荒くなり、 同時にキスも激しくなる。
カイはキスをしながら糸の背中に手を回し、 身体をそっとベッドに横たえる。
糸 ( あっ…… !)
2人の身体の間を隔てていたシーツを、 邪魔だとでもいうようにもどかしげに剥がすと、 キスをしたまま肩を丸く撫で始めた。
肩から腕へと手のひらでゆっくりなぞりながら、 カイが顔を起こして糸を見つめる。
カイ 「糸…… 」
吐息まじりで名前を呼ばれてゆっくり目を開けると、 熱を帯びた色っぽい瞳で、 カイが問いかけた。
カイ 「糸と俺がキスから先に進むのは初めてだよ。……本当にいいの? 」
糸が目をつぶってコクリと頷くと、「くそっ!」という呟きと同時に首筋に吸い付かれ、 チュッという音と共に、チクッとした痛みが走る。
次に同じ痛みが左胸のすぐ上に起こったと思ったら、 右胸にカイの手が伸びて、 優しく愛撫された。
糸 「あっ…… 」
思わず溢れた自分の高い声に驚き、 思わず口を塞ぐと、 それに気付いたカイが、 胸から顔を上げて、 掠れた声で言う。
カイ 「糸…… 声を聞かせて」
糸 「あっ…… 嫌…… だ…… 」
右胸に触れる指先は、 カイが話している間も休むことなく快感を与え続けている。
カイ 「嫌なの? イイの? …… イイなら俺は調子に乗って先に進むよ」
糸 「イイ…… から…… もう恥ずかしいから…… 何も言わないで…… 」
両手で顔を覆って真っ赤になっていると、 カイがフッと表情を緩めた。
カイ 「…… それじゃあ黙って糸を気持ちよくさせることに専念するから…… 糸は素直に感じてて」
そのまま胸に顔を埋め、 舌を這わせた。
糸 「やっ…… ああっ…… 」
糸の艶っぽい声にカイは興奮の色を隠せず、 右胸に置いていた手を、 脇腹、 腰、 そして内腿へと下ろして行く。
糸 「あっ…… 嫌っ! 」
カイが宣言通り一言も発せず、 黙って糸の足の間へと指を滑らせると、 生まれて初めての快感で、 糸の腰がピクリと跳ねた。
カイの、 男の人にしては綺麗で細い指先が、 優しく激しく、 糸の身体の中心で動くと、 電流が流れたように身体がビクンと跳ねて、 その後に身体の奥から快感の波が何度も押し寄せた。
糸はカイの荒い息を耳元で聞きながら、 心地よさと羞恥心と激しい倦怠感に包まれて、 意識を手放した。