死にたがりのブルース
「アンタ、大丈夫?」


毒々しい紫色のネイルがついた手を差し伸べられる。



「あ、すんません」


「そんなに派手にコケる人、あたし初めて見たよ。でも、ありがとう。助かったよ」



嫌味の無い笑顔を見せる彼女は、どこか内面的な芯の強さを感じさせた。


「あたし、ヒメノって言うの。いやー、最近やたらとあのおっさんに絡まれててさー。正直、困ってたんだよねー」

「あ、はぁ」


聞いてもいないことをベラベラと喋ってくるヒメノと名乗ったキャバ嬢の声に、頭を抑える。


「アンタが来てくれてなかったら、金的食らわしてたよー」なんて言いながら、ガハハッと大きな口を開けて笑うヒメノは、どの女性よりも親父くさかった。


これ以上彼女に捕まるのは勘弁だ、店にでも連れて行かれたら困ると考え、急いで荷物を拾い上げて早口に告げる。



「怪我はないみたいだし、良かった。じゃぁ俺はこれで」


「あ、ちょっ……」



呼び止めてきたヒメノの声を無視して、路地裏から立ち去る。



本当に、今日は厄日だな。

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