死にたがりのブルース
状況がよく飲み込めていない俺とは対照的に、課長は迷いの無い瞳で力強く頷いていた。



「はい。私の補佐を出来るのは、彼しかいないと思っています。佐原くんには忍耐力が備わっている。どんなに叱られようがどんなに困難な状況になろうが、彼は決して逃げません」


隣で浮いている閻魔大王が、「やるじゃん」っといやらしい目付きで脇腹をトンッと突いてきた。


『彼は決して逃げない』という上司の台詞が、現実から逃げ、自ら命を絶ち止まっているハズの男の心臓に、グサグサと突き刺さる。




「佐原くん以外に適役は考えられません。ぜひ、彼にお願いしようと思います。社長、私の決意は変わりません」



その言葉を聞き届けた社長は、深く頷く。


「分かった。では、君の判断に任せるとしよう。佐原くん本人には、明日説明してやってくれ」



そう言って社長は深々と頭を下げる課長を背に、先に会議室から出て行った。


「嘘だろ、課長がそんな風に俺のこと見てくれてたなんて……」



鬼のような嫌な上司が、まさか自分のことを評価してくれていたなんて……知らなかった。



しかも、これは言わば事実上、昇進ということになる。



まさか、課長が今日の夕方に『明日、大事な話がある』って言っていたのは、リストラなんかの話ではなく、この事だったんじゃないか?


だとすれば、俺はとんだ早とちりしてしまったのでは……。
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