死にたがりのブルース
現場に戻った課長は何食わぬ顔をして、ツカツカとパソコンに向かっている俺に近づき、肩を叩く。
「佐原くん。この間も書類に記載ミスがあったぞ、しっかりしてくれよ。全く」
「すみません、以後気をつけます……」
あー、こんな風に自分を客観的に見るのは不思議な気分だ。
それも、疲れた顔をしてペコペコ頭を下げている情けない自分の姿を、見るなんて。
「佐原はさ、自分を卑下しすぎなんじゃない? そんな濁った目してるから、大切なことに何ひとつ気付けないんだよ」
「うるせっ」
憎たらし口調で人の傷口を抉ってくる閻魔大王を突き飛ばしてやろうかとも考えたが、いかんせん少女の姿をしているため、僅かに残っている良心が働き、拳をグッと握り締めるに止まった。
叱りつけた課長が、俺に背を向けてゔんんっ、と軽い咳払いをする。
「佐原くん、君、最近疲れているようだが大丈夫かね?少しは休みたまえよ」
ファイルを開き、先ほど指摘された箇所を修正している自分には、話しかけられた記憶なんてなくて。
「あ、はい、大丈夫っす」
どこか上の空で、そう返事を返していた。