死にたがりのブルース
会社を出てから、優子の足は真っ直ぐにデパートへと向かっていた。


快適な室温が保たれたデパート内には、優雅なBGMが降り注ぐ中、夕食の買い出しに来ている主婦層の姿が。


「さ、今日は智くんに何を作ってあげようかな」


嬉しそうな表情をして買い物カゴと財布を握り締める優子を見て、酷い言葉を吐いた喉から胸にかけて、締め付けられるような痛みが生じた。


そうか。


彼女はここで俺の家の冷蔵庫の中に入っていた料理の、買い出しに来ていたのか。



……それも、こんなワクワクした顔をしながら。



違う男と付き合えば良いなんて、最期の俺はなんて酷い言葉を、彼女に吐いてしまったのだろうか。



「なんでそんなにきもちわるい顔してるの? 今更、罪悪感でも込み上げてきた?」


フヨフヨと宙を舞い見下してくる閻魔大王に返す元気も無く、ただジッと恋人の行動を見守る。



「えっと、今日は智くんの好きな海老フライと、から揚げにしようっと。ふふっ、きっと喜ぶだろうなぁー。早く会いたいなぁ」


魚コーナーで海老を手に取りながら俺の好きなメニューを口にする優子に、愛しさを感じた。


俺も会いたいだなんて、場違いな想いを抱いてしまう程に。
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