死にたがりのブルース
全く心当たりがないまま、言われた通りに受け付けに向かうと。



「おー! いたいた、私の命の恩人さんっ」


そこには、あの派手な成りをしたヒメノと名乗ったキャバ嬢がいた。



「命の恩人って、……大げさだなぁ。ってか、何で俺の会社の場所を知ってるんですか?」


「なぁに、そのストーカーみたいな言い方。失礼しちゃうわね。お財布を届けてあげた美女に向かってさ」


ボスっ、と胸元に投げつけられたそれを慌ててキャッチすると、覚えのある皮質が手に収まる。



「お、俺の財布だ!」


「アンタ、それ、昨日親父にタックルかました路地裏に落としてたわよ?」


財布に入れていた名刺から俺の会社を把握した彼女は、わざわざ此処まで届けに来てくれたというのだ。


「ありがとうございます!良かったー」


礼を述べると、サバサバとした性格を体現しているかの如く、カチャリとサングラスを掛けて彼女はくるりと背を向けた。



「まっ、これで昨日の借りはチャラってことで。あ、私のお店に来てくれるなら、いつでもご指名お待ちしております」


ふわり、とロングヘアーを揺らし、高いヒールを鳴らして朝日の煌めく外へと足を進める。



「まぁ、お互い嫌なことありまくりな人生だけど、まぁ、せいぜい頑張りましょうね」


細く長い指を左右に揺らし、ヒメノはそれ以上は何も言わずに自動ドアから出て行った。




「かっ、カッケー。……嫌なことありまくりな人生、か」


清々しいほどに晴れ渡る、雲ひとつない空を見上げる。


「それでも俺は、死に物狂いで足掻いて、生きてみるよ」
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