【全巻完結】愛は惜しみなく与う①
響がそう叫ぶと
もう一度椿は聞く


「ねぇ、好きだよね?」


その問いにも響が否定すると、女は響に近づいて、腕を振る

あ、殴られる


そう思ったが違った


生温い何かが響の頬に伝う


な、何?


響は自分の目を疑った


女は自分の腕をナイフで切ったのだ

その血は響にかかる


「うわーーーー!」

「響くんが、好きって言わないからだよ?」

「何してんだよ!」

「好きな人に愛されないなんて、死んだ方がマシだから」


そう言った椿の目は完璧に逝っていたらしい


「ねぇ、愛してる?」


その後何度も何度も質問されたという。その度に、響が否定すると、また違う場所を切ったり、同じ場所を深く切ったりした

決して自分を傷つけられる訳ではないが、自分の回答次第で女が血を流していく様を、見せ続けられた



「あたし響くんに殺されてる」


「俺は!何もやってないだろ?帰してくれよ…」


泣いても泣いても止まない質問


「このままだと死んじゃうよ?ねぇ、愛してるでしょ?あたしのこと」


真っ白の部屋はすでに、真っ赤に染まる
響の身体にも血は飛び散る

もう思考はおかしくなっていた


そして響は言った



「あ、愛してる。だからもう、やめてくれ」

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