【全巻完結】愛は惜しみなく与う①
『杏様?本当に戻られますか?』
「戻るよ。なら志木は何の為に電話してきたん?」
『……私は貴方が戻らないとおっしゃるなら、それでいいと思います。私は杏がそこまでする必要ないと思ってる』
こんなことを言ったら、東堂財閥の執事として失格ですかね。そう悲しく笑っていた
志木は…東堂財閥に昔から仕えてくれている、由緒ある執事の家系の者だ。
志木の母親にあたしは育てられた。志木とは兄妹のように育ててもらった
「失格ちゃうよ。あたしが人の上に立つものとして失格なだけ」
志木を巻きこみ、辛い役目を負わしている。そんな最悪なご主人はおらんで。
『私は杏様の側でお仕えできるだけでいいのです。鈴様でもなく、蘭様でもなく、あなたがいいのです』
アホやな
あたしの側なんて苦労するだけやのに。
せっかく優秀な執事やのに。誰もが羨む執事やのに。
「苦労かけるわ。ありがと」
それでもあたしは、志木を手放せない
それは志木の優しさに甘えているから
『会われるのですね』