【全巻完結】愛は惜しみなく与う①
人の気配がするのに静かすぎるし、これはオカシイ!そう杏は言って、俺に後ろを頼む!そう言って先頭を歩き出した
どんだけ逞しいんだか
教室でのあの儚い雰囲気は、もうカケラもない
ピリッと張り詰めた空気で、杏は歩く
笑いそうになってしまった
だって倉庫には声を潜めて杏を待つみんなが居る。なのに杏は、敵だと思い、慎重に歩く
はぁ
ほんと、何にでも全力だな
倉庫の扉を開けて杏は、素早く動き扉の後ろに隠れて中の様子を伺う
あまりにも動きが素早くて、笑いをこらえることに必死だった
スパイかよ
「電気つけるで」
小さな声で呟く杏に、あぁとだけ答えておく
馬鹿みたいに悩んでたのが嘘のようだ
杏は杏だ。どんな悩みや過去を持っていても
今ここに杏はいるんだから…
そして電気をつけてクラッカーの音を聞いて
杏は口を大きく開けて立ちすくんでいた
可愛いな
俺は何をごちゃごちゃ悩んでたんだろう。答えは決まってるのに
ただこの無邪気な杏の笑顔を守りたいだけだ