【全巻完結】愛は惜しみなく与う①
女が角を曲がり、ようやく息を吸えた気がした
俺…久しぶりに震えた
心臓の音もうるさい
「……朔、いいか?」
ついて来てくれと、あの女の家とは反対方向に歩き出した。
泉の顔からは気持ちは読み取れない。
もしかして、誰かがあいつらを殴った後に、そこにちょうどあの女が来たのか?
……
ちがう。そんな訳ない。
だって普通の女じゃ、あんな中で立ってられるわけがない。
手に血が付いてるのは見えた。あれはあの女の血ではなくて……黒蛇のやつの血だ
頬の血は返り血
夕陽に照らされて逆光の中たたずむ女を、綺麗だと思ってしまった自分がいた
「泉、どこに行くんだ?」
「…新のところ。さっき見たことは、誰にも言うなよ」
「は?今のを…か?」
いやいや、こんなの見せつけられて心の中に留めておけと?じゃあなんで今から新の所に行くんだよ
黙ってついてこいと言わんばかりの泉にイライラが募る
「待てよ!なんでそんな冷静なんだよ!なんでアレかを見てお前はいつも通りでいれるんだよ!!!」
なんで…