君と夏と恋
「あの、、、大丈夫ですか?」

私の揺すりに、彼はゆっくりと瞼をひらいた。
そして、軽く伸びると、周りを見渡し、私の顔をじっと見つめてきた。

そして、ゆっくりと口をひらいた。

「いま、どこで何が起こってますか?」

初めて声を聞いた。

顔を正面から見た。

綺麗で整った顔に長い睫毛。優しい声。そして、まん丸くなった目。

私は彼の丸くなった目があまりにも漫画のように見えて、笑いそうになるのをこらえて答えた。

「電車のトラブルか、何かで停車中です。おそらく、あなたの降りられる駅までは、いつもだと、まだ30分はかかる所に止まっています。」

彼はエンジントラブル?と小さくつぶやくと、携帯の時間を見て私にいった。

「学校間に合いますよね?」

正直、こっちが聞きたい。

登校時間まではあと1時間はあるが、この停車時間次第では怪しい。

「わかりません。待つしかないんです。」 

彼は、その答えを聞くと困った顔をした。

「俺、今日はテストなんです。間に合わないと困るんです。」
そう言うと、彼は下を向いた。

助けてあげたいが、どうにもならない。

私も下を向くと、手元に本がある。ハッとする。この本は彼のだ。

「あの、これ、急停止の弾みで私の方に飛んできて…」

「あ、ごめんね。ありがとう」

本を受け取ると大切そうに鞄にしまっていた。
少し気不味い。そんな時、先に口をひらいたのは彼はだった。

「あの、いつもこの時間の電車に乗ってこられますよね。」

いつも寝ていると思っていたので、知っていることに驚いた。

「はい。あなたも、いつも乗っておられませんか?」

彼は恥ずかしそうに笑って言った。

「いつも、寝ているんですけどね。その制服、どこのですか?俺は ふる里山高校。」

「私は、峰先が丘高校です。」

彼は おっ!と顔をして、頷いた。

「なるほど、お互いに進学校ですね。俺の同級生もそっちの高校行ったやつがいます。
あなたも3年ですか?」

立て続けの情報についていくのが大変だ。

「はい。同い年です。」

「なら、タメ口でいい大丈夫だよね。俺は石崎友輝。君は?」

「私は、星野夏海です。」

「オッケイ。星野さんな、」

彼は優しい笑顔をした。

「…」
どうしよう。会話に困った。
彼もまた、会話に困ったように頭をかいた。

次は私の番だ。
「石崎くんは、なんの本を読んでたの?」
もう、聞くことに困った私は本に頼ることにした。だが、私は本を読まない。つまり、何を言われても分からない可能性が高いということだ。
「あっ、あれは神様のカルテ」
私は一瞬にして神様に感謝した。本の題名ではなく、本当の神様に。

私は知っている!「神様のカルテ」なら、しっている!しかも、映画も見た。
「神様のカルテしってる?あれ、すごく好きなんだ。」
「うん!知ってる!あれは私も全巻持ってるよ。」
彼は少し安心したように笑った。
なぜだろう。胸の鼓動は早くなった。

その日を堺に私達は私が乗って彼が降りるまでの40分を一緒に過ごすようになった。
辛いはずだった夏期講習の夏は楽しみなものへと変わっていった。




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