冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
こんな浴衣着るの久しぶりだよ……。

花火大会に行く前にレンタルの浴衣を借りてさっそく部屋で着てみることにした。安西部長は食後の一服へ出かけていて、そろそろ戻ってくるはずだ。

私の選んだ浴衣は藍染の朝顔が描かれた古典柄で、少し地味かと思ったけれど、安西部長から青が似合うと言われてつい意識してしまった。売店で買ったヘアピンでそれらしく髪の毛をアップにまとめ、鏡の前の私は花火大会にぴったりな装いになった。

「大倉、準備でき――」

安西部長がどう思うか、緊張しながら待っていると部屋のドアが開いた。

「あ、安西部長、私はいつでも出られますよ。……どうしたんですか?」

安西部長は部屋に入ってくるわけでもなく、物珍しい物でも見るかのような目をして固まっている。

「あ、いや、なんでもない。なかなか色っぽくなったな」

馬子にも衣裳なんて言われたらどうしよう、なんて思っていたけれどほんのり赤くなっている安西部長の顔を見ていると私まで照れてしまう。

「藍染にしたのは、青が似合うって俺が言ったからか?」

「ち、違っ……」

あっさり図星を指されて口ごもる。否定すればするほどムキになってるみたいで、喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。そして口元を痙攣させて真っ赤になる私を見て、彼はクスッと笑った。

「ほら、行くぞ」

男性用にも甚平のレンタルがあったのに、安西部長は頑なに「蚊に食われる」と言って断固拒否した。

安西部長の甚平姿も見てみたかったんだけどなぁ。絶対に合うと思うんだけど。

さっさと歩いて行ってしまう彼を追いかけて、私たちは花火大会へ向かった。
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