冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
私は繋ぐ手に力を込めて、息を呑んだ。

「私、あの……安西部長のこと――」

「え? なんだって?」

「好きです」と、声に出して思い切って告白したのに盛大に上がった花火の爆音に肝心な部分が掻き消されてしまった。

安西部長は肩越しに振り返り、聞き取れなかった私の言葉に首を傾げている。

少女漫画の告白シーンで予期せぬ邪魔が入るという、あるあるハプニングに私はガックリと肩を落とした。

「……なんでもないです」

二回も告白をしようとして失敗してしまった。もう一度同じことを言い直せるほどタフな精神力は持ち合わせてない。これはもう、想いは届かないと神様からほのめかされているのか……。

花火大会も終盤に近づいてきたときだった。まるで私の気持ちを表しているかのような暗雲がどよどよと立ち込めてきて、次第にポツポツと雨が降り始めた。花火を観に来ていたお客さんたちは蜘蛛の子を散らすように会場から退散し、花火も中止のアナウンスが入る。

あぁ、最悪。
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