冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
「視察から今帰ってきたところなんだろう? 生憎、俺はほかの打ち合わせに出なきゃならなくて……会議には同席できないんだけどさ」

同席できないからなんだというのか、自分がいなきゃ私が会議で失敗するとでも思っているのか、彼のとんだ思い上がりに私は眉を顰めた。

「安西部長が遅れて出席してくれるから私は平気。っていうか、いなくたって会議はちゃんとできるし。もちろんあなたがいなくてもね」

健一と付き合っているときの私は弱かった。いつも不安で自信がなくて人に頼ってばかりだった。そんな自分を安西部長は何も言わずに陰でずっと見守っていてくれた。それを知った今は、もうひとりでも大丈夫だとしっかり足を踏みしめられる。

「なんか視察に行く前と雰囲気変わったな。もしかして、安西部長と何かあった?」

「もう、これから結婚するっていう人に関係ないでしょ」

安西部長と“何か”あっても彼に話すつもりもない。

時間を確認すると、会議開始五分前になっていた。

「じゃあね」

「あ……」

会議に使う資料を胸に抱きかかえ、くるっと踵を返す。まだなにかもの言いたげな健一の視線が背中に向けられてるような気がして、私は逃げるようにその場を後にした。
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