冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
答えられない質問に言葉に詰まる。しんと静まり返る会議室。今まで円滑に進んでいた会議が滞り、皆が私に注目していた。

うぅ、どうしよう、困ったな……適当なこと言えないし、オフィスに戻れば資料があるはずだけど、今から取ってきますなんて言える雰囲気じゃ……。

いくら手元の資料を見返しても、岡崎専務の質問に答えられるデータはない。

絶体絶命――。

頭の中が真っ白になりかけていたそのときだった。

「専務、そのデータでしたら後で企画部に詳細を出してもらいますので、概算の人数でよければ……すみませんが今はこれを参考にしてください」

あ、安西部長!? いつの間に?

会議に集中していたせいで彼の存在にまったく気づかなかった。ドア付近に立っていた安西部長が颯爽と歩いて、手にしていた書類を岡崎専務へ渡した。

ちゃんと無事に帰ってこられたんだ。よかった……。

頂点に達していた緊張が、彼の顔を見たらホッとほぐれていく。

安西部長から書類を手渡されると、岡崎専務がほんの少し動揺しているように見えた。専務も意表を突かれたに違いない。

「ああ、すまないね。せっかく報告してもらってるんだし、この時期の宿泊客の人数を把握したくてな。うんうん、なるほど」
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