冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
「お前な、旅行じゃないんだぞ? たった二泊三日だぞ? こんな馬鹿デカいスーツケースじゃないと荷物が納まりきれないなんて、一体なに持ってきたんだ?」

「えーっと、色々です」

友達と旅行に行くときもなぜか私だけ大荷物になってしまう。もちろん、今回は旅行じゃなくて仕事だということはわかっているけれど……。

安西部長は呆れ顔で私の荷物をラゲッジスペースに詰め込むと、「乗れよ」と短く合図をされて助手席のドアを開ける。

以前まで安西部長はかなりのヘビースモーカーだった。最近は本数を抑えているみたいだけど、きっと車内も煙草の匂いが……と思いきや、中の空気は意外と澄んでいた。

「匂うか?」

鼻をスンスン言わせていると、安西部長が運転席に乗り込んでくる。

「いえ、全然」

「昨日、一時間かけて全部掃除したからな。俺の愛車、汚すなよ?」

「わかってますって」

安西部長はニッと笑ってハンドルを握ると、車は熱海へ向かって動き出した。

そういえば、安西部長って彼女とかいないのかな……?

車の隅々に目をやるけれど、女性の影を感じるような物もないし掃除をしたというだけあってピカピカだ。

自分のデスクもこのくらい気を遣って綺麗にすればいいのに……。

「あ、ナビ、セットしますか?」

「熱海ホテルは何度も行ったことがあるから道は覚えてる。それより暑いな、ちょっとエアコンの温度下げるぞ」

不本意に軽く腕を捲った袖から覗く太く逞しい腕に思わずゴクッと喉が鳴る。

あんな腕に抱かれたら……なんて、先走った妄想が今にも湧いてきそうで私は慌ててブンブンと頭を振った。
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