冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
一時間前の回想を終え、俺の気配にも気づかずにオフィスへ戻って行く大倉の背中を見つめながら、ハァと盛大ため息をつく。

まさか、社内にも交際している女性がいるというその女性が大倉瑞穂だったなんてな……。

大倉は俺が手塩にかけて育てた部下だ。彼女がどこの誰と付き合おうが、俺には関係ない。そう思いたいが、可愛がっている娘が妙な男にたぶらかされて右往左往している父親のような心境を拭えない。

あ、そういや今度の熱海ホテルの視察、大倉と柊に任せたんだった。

こんなことだと知っていれば、ふたりで行かせるなんてことしなかったのに、しまったな……。

柊に騙されているとも知らず、笑顔を振りまく大倉を見ているのが心苦しい。いずれ彼女は柊に捨てられる。かと言って真実を大倉に伝えたところで信じてもらえるわけがない。無力な自分に嫌気がさす。

あいつにフラれても、そのときはちゃんと俺が慰めてやるから……安心しろ。

心の中でそう呟いて、俺はもう一本煙草をくわえて新宿の街を眺めた。
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