冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
ちゃんと俺が慰めてやるから――。

そんなふうに思っていた一ヵ月後、そのときは思いのほか早々にやって来た。柊が部署の全員の前で結婚報告をしたのだ。

くだらない惚気を聞いているだけで胸糞が悪くなってオフィスを抜け、いつのも非常階段で一服していると、勢いよくドアが開かれて誰かが出てきたかと思ったら……。

「健一のバカヤロー! 女ったらし! 二股最低男! 呪われろーっ!」

座っていた階段から思わず転げそうになるくらいの大声で彼女は新宿の街へ向かってそう叫んだ。

普段は大人しいやつだと思っていたが……知られざる一面を見たって感じだな。

今にも嗚咽をこぼして泣き出しそうな大倉に俺は覚悟を決めて彼女の前に姿を現すと、大倉は目元に涙が浮かんでいるのも忘れて驚いたような顔できょとんと俺を見つめた。

俺は岡崎専務から柊のことを聞かされて、いずれこうなることはわかっていた。大倉の涙で滲んだ顔を見ていると、無性に罪悪感と庇護欲の入り混じった自分でも表現しがたい感情が沸き起こった。

そしてこれ以上、柊に彼女を泣かせられてたまるか!という独占欲にも似た気持ちも……。
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