冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
そう思ってソファから立ち上がろうとしたそのときだった。セパレーション代わりに置いてある背の高い観賞植物の向こうから、男性の話し声がふと耳に入る。

「ええ、今さっき東条リゾートの熱海ホテルに到着したところです。うーん、まぁ、見た感じ……うちのホテルには到底及ばないって感じですかねぇ、照明もちょっと暗いし」

ん? なに? うちのホテルのこと話してる?

私は浮かせた腰を戻し、その話し声が気になって身体を寄せてそっと耳を傾けた。

「適当に偵察して、後日報告書にまとめておきますから、そうですね、あまり参考になるようなところもなさそうだし……まぁ、すぐに終わりますよ。じゃあ、失礼します」

葉っぱの陰に隠れてその男性の後ろ姿を見てみる。一見若そうな感じだけど、話していることはなんだか嫌味な内容だった。

うちのホテルには到底及ばないって……なによそれ。

私の気配に気づいたのか、その男性がソファから立ち上がってくるりと私のほうへ向いた。

「なにかご用かな?」

「え? わっ!」

「もしかして盗み聞きしてたのかな?」

その人は私より少し年上か安西部長と同じ年くらいで、優しくタレる目を細めて笑顔を浮かべている。甘い顔立ちのいわゆるイケメンだ。

「……すみません」
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