冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
バッチリ聞かれてますけど? それに、貸し切りじゃなくて同じフロアに私、泊ってますけど?

生々しいリップ音が外まで漏れている。私は聞くに堪え切れず小走りでその場を離れ、廊下の角を勢いよく曲がった。

「わっ!」

「きゃ! も、申し訳ございません! お客様、お怪我はありませんか?」

一瞬、何にぶつかったのかわからなかったけれど、ちょうどリネン担当の女性従業員が押していたワゴンと出合い頭に正面衝突してしまった。

「こちらこそ、すみません。大丈夫です」

ぶつかった弾みで積み上げていたシーツの塊が床に落ちてしまい、私はそれを慌てて拾いあげる。

「拾ってくださってありがとうございます。私こそ、そそっかしくて……」

ずいぶん若いスタッフだけど……アルバイトさんかな?

小柄でボブヘアの似合う、まだ学生さんにも見える彼女はペコペコと平謝りを続けている。

なんか初々しいな、私もそういえば昔、旅館でバイトしたことあったっけ……。

「学生さん、ですか?」

自分と同じようにそそっかしいという彼女になんだか親近感が湧いて思わず声をかけた。

「え? あ、そうなんです。ちょうど今夏休みで、短期で仕事させてもらってるんです」

彼女は地元の大学に通う学生さんで、繁忙期である今、短期でアルバイトをしていると話してくれた。
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