冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
カシスオレンジの入ったグラスをテーブルに置いて、安西部長の横顔を見つめる。

「お前はそういう人間じゃないって意味だ」

グラスから視線を私へ向け、安西部長は口元に笑みを浮かべた。

安西部長だってきっと“そういう人間じゃない”はずだ。だから、佐々岡さんが言っていた“不祥事”という言葉が余計に引っかかった。

「どうせさっきの話の続きが聞きたくてウズウズしてるんだろ?」

図星を指されて言葉に詰まる。聞きたいような、でも聞いてはいけないような迷いでうまい返事が見つからない。

「え、ええ……でも、人には話したくない過去ってあると思いますし……無理には――」

「いや、お前に……聞いて欲しいんだ」

そんなふうに「お前に」なんて言われると、自分が彼に選ばれた人間のような気になってしまう。

「俺が佐々岡の元社員だったことは社長と専務くらいしか知らない。だからほかのやつには言うなよ? 仕事がしづらくなるからな。お互いに」

「誰にも言いません」

そう誓ってコクンと力強く頷くと、安西部長はこれから口にする言葉をしばらく考えるように、手持ち無沙汰にウィスキーの入ったグラスを軽く揺らした。
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