冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
黙って私の話を聞いていた安西部長が額に手をあてがって、大きくため息をつく。

「今、こんな場所じゃなきゃ……お前のことを抱きしめていたかもしれない」

「え?」

「本当は心のどこかで俺の考え方は間違っているのかって、いつも自問自答していたんだ。お前が俺の情けない迷いを振り払って、背中を押してくれた……ありがとうな」

安西部長は抱きしめる代わりに、そっとカウンターに置いた私の手に自分の手を重ねてぎゅっとした。それだけでも、なんだか彼の胸に抱かれているような気がしてカッと頬に熱を持つ。

「っ、す、すまない……」

目を小さく見開いて、自分のしたことに我に返った安西部長は弾かれたように手を離した。

「いえ……」

安西部長に手、握られた!

急に気恥ずかしくなって咄嗟に俯くと、心臓の鼓動がうるさいくらいに鼓膜に響いた。

私は安西部長の表情が気になって横目でチラリと様子を盗み見た。すると、ほんのり頬に赤みが刺して、初めて目にする安西部長の照れたような顔にドキリとした。

こんな甘酸っぱい気持ちは……なんだかあの感情に似ているような?

「部屋に戻るぞ」

「あ、はい」

ふたりの間に漂っていた曖昧な空気を断ち切るように、安西部長が口を開いてスツールを立つ。
安西部長の手、すごく温かかったな……。

ドキドキと波打つ胸を押さえ、私は心の中に湧いた安西部長への甘い感情を掻き消すように、グラスに入ったカシスオレンジを飲み干した――。
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