君のそばにいさせて
真っ青な晴天の中。
遊馬くんの出場する陸上大会が開催された。


大きな大会は夏休み。
その前にすこし調子を整えるためにも参加して手応えをみるんだよって教えてくれた。

陸上競技場内は、保護者の人や部員の人たち、私たちみたいに同じ学校の人たちで座席はほぼ満席だった。

その中でもひときわトラックを駆け抜ける選手たちへの視線が多い。

たぶん、森山くんが出るからかな。
ここ最近また、期待の新星としてテレビや新聞に出ていた。

短距離と、たしか、中距離もでると、遊馬くんが言っていた。

大きな歓声が響いた方を見ると森山くんが走ってゴールしていた。
風を切って一番にゴールに駆け抜けていく姿は本当に目が離せなかった。

ゴール付近で部員のみんなに囲まれている彼は、とびきりの笑顔だった。
絶対的王者。
短距離では、彼はトップだった。
日本代表も囁かれているくらい期待の人。


遊馬くんと反対のタイプだけど、陸上をしている時の二人は似ている。
陸上をする時の顔が。




遊馬くんを探すと、
トラックの真ん中で、ウォーミングアップをしていた。

周りより身長が飛び抜けて大きいから、遠くてもわかる。
それに、遊馬くんは華があって目立つ人。

人の視線を惹きつけるから、彼から目が離せなくなる。



<<苦労が多そうだな>>

遊馬くんと付き合い始めた時、
森山くんにそう言われたことがある。

放課後、部活終わりの遊馬くんを校門前で待っている時、
一足先に部活を終えた森山くんが帰るところだった。

「遊馬は、モテそうだし」
「えっ、モテ、、るかな」

森山くんは、クラスメイトの女の子には優しくて笑顔で話ししているのに、なぜかわたしにはいつも厳しい顔して、話す言葉もわたしの心に突き刺さるような言い方ですこし苦手だった。

嫌われているのかなって思っていた。

遊馬くんと仲良しでもわたしは仲良くなれなくて、森山くんがいる時はあまり遊馬くんの近くにはいかなかった。

だから、こうして、直接話するのも緊張する。

「モテるんじゃない?男女問わずに。」
「そ、そうだよね」

森山くんが何のためにこんな話をしてきたのか、この時はわからなかった。

だけどすぐに、理解した。

付き合って私への嫌がらせも女子生徒から多少あったし、ジロジロと見られてもいた。
でもそれは遊馬くんがいつもそばにいて守ってくれた。


私にそんな攻撃があるということはそれだけ遊馬くんが人気あるということ。
私より可愛い人、美人な人、いろんな人が遊馬くんに近づいてきたし、
そのたびに気持ちが落ち着かなかった。

だけど
一方で私なんか遊馬くんの彼女でいるのが不思議だったし
いつも引け目を感じていたから
どこかで遊馬くんがほかの人に惹かれてもしかたないって思っていた。
変な話、いつ、振られてもいい覚悟はできていた。
そんな気持ちだから
遊馬くんの彼女は私って強気でいることはできなかった。

付き合って2年半になった今でもその気持ちはまだある。
いくら
遊馬くんが私のそばにいてくれても
遊馬くんに好きだといわれても

いつか・・私の手を離してしまうのではないかと。
その思いはまだ消えていない。



トラックの真ん中にあるスタート位置に遊馬くんがついた。

遠くからでも遊馬くんの表情がわかる。
まっすぐ前を見据えて空間をひろう。

あの表情の遊馬くんは無敵だから大丈夫。
必ず勝ちを取りに行く人。


全ての競技が終わり

表彰台の遊馬くんをたくさんの拍手が取り囲む。

誇り高い表情。

近くて遠い人。

遊馬くんがたくさんの賛辞を浴びるたび、
私はどこかで寂しさに、襲われる。

遊馬くんは、わたしだけの遊馬くんじゃない。

遊馬くんと一緒にいる資格あるのかな。

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