君のそばにいさせて
遊馬は何でも、そつなくこなして
スマートに行動できて
周りの大人からも一目おかれていた。

遊馬の父親と俺の父親は、幼馴染で
今も近所に住んでいるから、
幼い時から家族ぐるみで付き合いがあった。

遊馬とも必然的に付き合いも長くなっていて
幼稚園からずっと同じ学校だった。


遊馬は、線も細くて
身長も高く、綺麗な顔立ちしていたから
美少年風情で、小さい時から目立っていた。

愛想も良くて
いっつも笑顔で、誰とも難なく付き合えていた。

だけど、それは本当の遊馬じゃなく、
大人の顔色伺ったり
周りに合わせて
無理していることは幼い俺でもわかっていた。
ただ俺の前では年齢相応の遊馬でいてくれた。
それがうれしくて、遊馬とずっとつるんでいた。



中学3年の夏。

「つまらないな」
遊馬がシャープペンシルを持つ手を止めて
頬杖をついた。

もうすぐ一学期の期末テスト。
俺の家で勉強を2人でしていた。

成績優秀な遊馬に、苦手な数学を教えてもらっていた。

「森山だ、って成績いいのに、なんで僕が教えないといけないわけ?」

遊馬はふてくされたようにつぶやく。
遊馬は常に学年首位。
その後を追うのがいつも俺だった。

どうあがいても遊馬には勝ったことがない。
運動も勉強も・・そして人望も。

「まぁ、いいじゃん。1人より2人で勉強した方が楽しいじゃん」

これは本音。
遊馬がいてくれた方が正直なところ、勉強も捗るから、大抵、テスト前は一緒に勉強しようと誘っている。

「仕方ないなぁ。というか、僕より、川上さんと勉強したらいいのに。」
「向こうは向こうで友達と勉強するんだってさ」

川上は、俺の彼女。
二年の冬に、川上に告白されてなんとなく、つきあっている。

恋とか好きとかよくわからないまま、
特別嫌いではなかったからそのまま、
つきあっている。

付き合うってなんだろ。
好きって?

よくわからない。
だけど、断る理由もないからつきあっている。

そんなこと言ったら遊馬には怒られた。

そんな気持ちで付き合ったら失礼だろって。

そういう遊馬だって恋愛なんてわからないし、
好きとかよくわからないくせに。

結構モテるくせに、いつも断っている遊馬は今まで彼女を作ったことはない

俺は泣かれたりされるのがなんとなく悪くて、嫌いじゃないならと思ってつきあっている。


「森山」
「あんだよ?」

遊馬の表情が真剣になって、思わず身構える。
こいつの真剣な顔ってひさびさに見たような気がする。
おれが見るのは、穏やかな顔の遊馬ばかりだ。

しばらく沈黙があって重そうに口を開いた。

「あのさ。」
「うん」
「森山は川上さんのこと好きなんですよね?」

まさかまさか、遊馬からこんなセリフが聞こえるなんて。

好きの、す、も全く、聞いたことがなかったのに。

「何いきなり?まぁ・・そういうことになる・・かな」
ぶっちゃけて言えば、いつも、女の子に告白される方だった。
付き合っている川上だっていまだに好きかどうかもわからない。
キライではないし、一緒にいても嫌ではない。
だけど‥好きかどうかといわれると・・。

俺は好きになった子なんていないのかも。


今まで恋愛の話なんてしたことなかったのに
遊馬から言い出すなんてどうしたんだ?

「なんでそんなこと聞くの?」
「あー・・えーと、うーん・・・」

言いにくそうに口ごもる。
いつもは、遊馬に論破されているだけに、ちょっと、優越感。

「いや・・あの、なんか自分でもわからなくて。気になって頭から離れなくて、もう一度会いたいと思ってて・・」
遊馬の言いたいことがよくわからない・・

気になる人がいるということか?

「好きな子がおるの?」

みるみる遊馬の顔が真っ赤になり、下を向いたまま恥ずかしそうに口元に手を当てる。

遊馬が、恋?
マジか。

「い、いや、わからないんだ。自分でも」
「.....」
「ただ、会いたいんだ。」

今までに見たことがない表情。
愛おしそうに、誰かを思う、顔。

こんな、顔をさせる女の子ってだれだ?

うちの中学にいたのか?

聞けば、先週の陸上大会で、ボランティアスタッフしていた、隣の校区の中学生らしい。


名前も知らない。


だけど、中学校と顔だけ分かっているという。

「自分でもわからなくて。、苦しくなったり悲しくなったり。また顔を見たいって。おかしいんだ、僕」

「遊馬、それって」

恋ってやつだよ、と言いかけてやめた。
教えてらやらない。



頭のいい佐倉くんが自分で答えを見つけたらいい。

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