君のそばにいさせて
季節はすっかり秋になり
だんだんと教室の窓からみえる景色も新緑から、オレンジ、紅色、茶色とグラデーションになっていった。

照らす光も、真夏のギラギラからやわらかくなっている。


「今日もお昼は美術室?」
「あっ、うん、あともう少しだから。ごめんね、ここ最近一緒にご飯できなくて」
「ううん、いいの。コンクール頑張れ!わたしは、部活の友達のとこ行ってくるね!また、あとで」

もえちゃんが、がんばってね、と言いながら教室を出て行く。



後もう少し。
あともう少しで、完成する。

お昼休みは、お昼を美術室に持ち込んで食べながら絵を描く。

放課後は、
塾のある時間まで美術室で出品作品を仕上げる。
そのあと、急いで塾に行く。
そんな生活を最近している。

正直、きつい。
受験勉強だけに専念できないのも、お父さんやお母さんに心配された。

絵画コンクールで入選できるかどうかわからないのに。推薦なんて取れるかどうかわからないのに、勉強が疎かになるんじゃない?と。、



コンクールに出すと決めたのは自分。
泣き言も、、愚痴も言わないと決めていた。

大学の推薦がどうとか、入選がどうとか
そんなことで、出品をきめたわけじゃないから。
これは、私の問題。

だから、やり切ると決めた。

お父さんお母さんに心配かけないように、勉強も疎かにはしないと、伝えて、今応援してくれている。


壁にかかっている時計を見るとお昼休みになって15分が過ぎている。


今日はまだ、森山くんは来ていない。
いつも、当たり前のように昼休みになると美術室にきていたから、こうして
美術室で一人きりだと、不思議な感じ。

誰と話しする必要もないから、
キャンパスに描く音だけがやけに響いている。


<<あの2人別れたんじゃないの?>>

噂はすぐに広まった。
噂というより、憶測。

一緒にいることもないし、クラス内でも必要以上に話もせず、お互いに近づくこともなかった。

かわらず遊馬くんは休み時間はどこかへ行き、放課後はすぐに、教室から出て行く。

ずっと、当たり前のようにあったことが、いまはもう、当たり前ではなくなった。

憶測は事実と異なる話題を作り上げる。
私と森山くんが付き合っているのではないかという話がいまはあるみたい。

事情を知っているもえちゃんは、何も言わないでいてくれる。
クラスのみんなも腫れ物に触るかのように、その話題には、触れない。


一ヶ月間、
昼休みを美術室で2人きりで過ごしていたら誰かの目には触れることは予想できていた。
案の定、
美術室に2人でいるところを森山くんのクラスメイトが見てから、すぐに広まった。

クラスメイトの子と目があったし、あっ、という感じて私を見ていたから、嫌な予感はしていた。

森山くんも人気あるし、女子と2人きりなんていうシチュエーションは、女子的には無視できないもの。

噂があるからと、いきなり美術室に来なくなるのは、噂を肯定するみたいだからって森山くんは変わらず昼休み、ここで昼食を食べている。

遊馬くんは、どう思っているのか、、。
私たちが離れたことをどう思っているのか。

それとも、やっぱりもう、、。

絵筆が、止まった時、

ガラッ。
「こんにちは」
森山くんが、コンビニの袋をぶら下げてやってきた。

「森本さん、お昼食べた?」
「あっ、ううん。いま私も来たところだから」

陸上部の顧問に捕まって遅くなったんだっていつも座る椅子に腰をかけながら話す。

「だいぶ、完成してきたね」
「うん」

「やっぱり」

.........?


「やっぱり、森本さんは、、なんでもない。
早くご飯食べよう」
言いかけて、やめて、森山くんはおにぎりを食べ始めた。


< 27 / 45 >

この作品をシェア

pagetop