君のそばにいさせて
僕は幼い時から、ある程度のことは出来ていた。
要領もよかったし、成績も良かった。

たぶん、勉強も運動も得意だったんだろうと思う。

絵が上手な人が絵を描くことが得意なように、
美味しい料理を作る人が料理が得意なように、
人それぞれ得意があるように、僕はそれが、勉強だったり運動だったんだと思う。

幼い頃から特に苦労はしなかった。


父親と母親と、四つ上の兄と、四人家族の次男として生まれた僕は、みんなから可愛がられたし、愛されてもいた。

愛されていたと思うけれど、何か自分の中で物足りなさを感じていた。

笑顔を向けて、相手の好む言葉を言えば誰もが好意を示してくれる。

相手が思うこと、望むことはなんとなくわかってしまって、それに答えようとしていた。

なんでもできる自分。

父親は官僚で、母親は世間体も気にして、とにかく父と同じかもしくはそれ以上のキャリアを、求めていた。

兄は優等生で、ずっと首席で、大学も難関国立に行った。
おそらく、大学院にもいってトップ官僚になる。
大学三年の兄は、どこを取っても完璧だった。


自分は?
自分はどうしたらいい?

ただただ、言われるまま動いて、勉強して習い事をして、なんのためにいるのか。

だけど、頑張るのは当たり前でそれを認めてくれるわけでもなかった。

父親の考えで義務教育までは、公立。
高校からは進学校へと話が決まっていたから、兄と同じ校区中に行き、そこで成績を上げてトップの進学校に行く筋道になっていた。



中学も、親のコマみたいにひたすら生きていた。
出来て当たり前。
親は自分をみてはいない。
世間体だけ気にしている。

そんなことを思って生活していた。
毎日、ただただ、時間が過ぎるのを待って、
ロボットのように命令を聞いて、
父のように、兄のようにと、言われ
自分というものを認めてくれなかった。

そんな時、陸上部の顧問から声をかけられた。
体育の授業でハイジャンをする機会があって、それをみて、スカウトしてきた。


陸上やってみないか?と。

求められたら、断ることができなかった。
何も考えず、必要ならそれをする。

たまたま
高く高く飛んだ。
大会で成績を残せた。

断る理由もないから、続けた。



それだけの理由で続けていた。


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