君のそばにいさせて
「森本さん、僕は君のことが‥好きです。」



遊馬くんから
そんな夢のような言葉が聞けるなんて思わなかった。

夢だと思った。

何が起きているのかわからなくて
理解するまで時間がかかった。

放課後、
いつものように美術室でデッサンをしていた。
本当は今日は部活の日じゃない。

私はここだと遊馬くんのハイジャンプの練習風景が一番よく見えるから
特別予定がない日は
毎日のように放課後、過ごしていた。

美術室は一階にあるから
よく窓から遊馬くんが声をかけてくれた。

私が一人のときだけ
遊馬くんが窓からのぞいてくれていた。


この日も
部活という名目で
遊馬くんの姿が見える特等席・・・
校庭側にある美術室の窓から見ていた。

あからさまに見ていると
恥ずかしいから絵を描くふりをしながら
視線は遊馬くんを追っていた。


窓越しに遊馬君と向かい合って
いつものようにくだらない話とか
今日の数学はいきなりテストで困ったこととか
そんな話をして

私は話をしながらも
夕日が遊馬くんの横顔を照らして
髪の毛がきれいな栗色できれいだな

おだやかな笑顔にやっぱり好きだな・・って見とれていたときに
いきなり言われた。

好きとかそんな言葉を遊馬くんから聞けるなんて思わなかったから
自分の耳を疑った。

両思いになれることや、ましてや、好きだなんて言われることは、絶対ありえないと思っていたし、手の届かない人からそんな言葉を聞けるなんて、、夢なんじゃないかって思った。
だからなおさら、

私のなかで遊馬くんの告白は現実として受け止められなかったんだと思う。

記憶が飛んでいたというか・・
遊馬くんの告白は現実感がなかった。
 

よくわかっていない頭で必死になって考えて
しばらくの

沈黙のあとようやく私が遊馬くんに話したことは・・・

「佐倉くん、このチョコレート、新発売なんだけどおいしいよ。」

遊馬くんと話しするまで
食べていたチョコレートの感想なんて
ぜんぜん意味の分からないことを口にしていた。

そして、たまたま手にもっていたチョコレート・・・
それを遊馬くんに向けていた。

「えっ・・」
遊馬くんはびっくりしていた。
あたりまえだよね・・

好きだといったのにまるでなかったことのように、普通の会話のようにしてしまった私に
本当ならあきれたり、怒って嫌いになってもおかしくない。

なのに遊馬君は、私が差し出した銀色の包みのチョコレートを受け取って笑っていた。

「森本さん・・・僕ね、森本さんが好きなんだ。・・・森本さんからもらうチョコレートもうれしいけれど、今は、チョコレートよりも森本さんの気持ちが欲しいんだ・・・。」

「・・・」

自分の顔が赤くなるのを感じた。
赤くなる自分の顔を見られたくなくて下を向いた。

ドキドキ。
もう、、心臓が、飛び出そう!



「森本さんのことが好きです。よかったら僕の彼女になってくれませんか??」

もう一度、私の目線まで屈んで、ゆっくりと見つめる。
遊馬くんの言葉はチョコレートより甘かった。
心臓が持たないくらい息ができないくらい・・
どうしたらいいかわからなかった、。

「・・・わ、わたしなんか佐倉くんには釣り合わないよ。かわいくないし。もっと素敵な人がい」

素敵な人がいるよ..と最後まで言えなかったのは
唇をふさがれたから。

そして
ぎゅっと抱きしめられた。

遊馬くんはやっぱり、おひさまのにおいがした。


「・・ごめんなさい。でも、君のことがとても好きすぎてキスしたくなりました。・・気持ちを止められなかったんです。」
「・・・・」
「・・・僕は森本さんが好きです。森本さんは僕のこと、嫌いですか」

遊馬くんの腕のなかで顔を振る。
嫌いなわけない・・。

私だって
すっと・・・・
キミを見てきた。

伝えてもいいのかな。
あふれる思いを伝えてもいいのかな。

伝えても大丈夫かな。


「・・私も佐倉くんのことが‥好きです」

絞り出すように、声を出した。
その言葉は、私にはとてもとても手が届かない言葉で、私が使ってはいけないような気がしていた。

でも、もし、
許してもらえるなら、、、。
「うん」
「、、、ずっと、初めて会った時から、ずっと、好きです」

遊馬くんが嬉しそうに微笑んだ。
そして、わたしの右頬に手を添えた。

触れている頬が熱を帯びる。

段々と
遊馬くんの顔が近くなり
もう一度、唇が重なる。

優しいキスだった。

そして
すこしはにかむような顔で遊馬くんが言った。

「森本さんのいうように、このチョコおいしいですね。森本さんの唇からおいしいのが伝わりました」

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