不死身の俺を殺してくれ
さくらが顔を上げると、煉は先程の呟きを何事もなかったかのように振る舞った。そして、礼儀正しく手を合わせ食事の挨拶をしてから、カップ麺を食し始めた。
無愛想でぶっきらぼうながらも、こうして礼儀を重んじる煉を、さくらは少し微笑ましく眺める。
……あれ? 何なんだろう、この感覚は。この気持ちは。
ふと心の中に芽生えた感情にさくらは、疑問を覚えるが今はそれよりも、煉について色々と聞きたいことがある。
「今日は泊まっていきますか?」
いや違う。そうじゃなくて、私はこんなことを言いたい訳じゃない。もっと別の──。
「お前が構わないなら」
脳裏で自分の言葉を否定していると、煉から至極あっさりと返答される。
「じ、じゃあ、シャワー浴びたらどうですか?」
えっと……これは……そういう意味ではなくて……。
さくらは焦れば焦るほどに、何故か脳裏で思っていることと違うことを、二回も口走ってしまう。
「分かった。だが、その前にコンビニに行ってくる」
さくらが言い訳を思考している間にも、話はどんどんと違う方向へと逸れていき、ますます焦りが募る。
どうしよう。このままでは、まるで私が誘ったみたいな展開になってしまう。それだけは阻止しなくてはいけない。
今日は、お酒飲んでないのに!!
そして数分後。煉は食事を終えると、本当にコンビニへと向かってしまった。
いっそのこと、このまま玄関の鍵を閉めようかとも思ったが、そんな酷いことはさすがに出来なかった。
さくらが、あたふたとしている内に、何故かマンションの管理人から連絡が届く。
管理人が連絡をくれた理由は、煉がマンションのエントランスで立ち往生している姿が、監視カメラに映し出されていたからだった。
さくらは、すっかり失念していたのだ。このマンションがオートロックなのを。
『迎えに行きます』と管理人に返事をし、エントランスまで煉を迎えに行く。
「す、すみません。忘れてました」
「いや」
そうして二人は再びさくらの自室に戻ると、さくらは煉にバスルームを案内しバスタオルを渡す。
「…………」
こんな展開になるなんて……。
さくらはローテーブルに肘をつき頭を抱えていた。その表情は絶望の色に染まり、額からはおかしな汗が滲み出ていた。
「……おい」
「はい……? きゃああああ!!」
煉の声が聞こえ、さくらが顔を上げ振り向くと、そこには肩にバスタオルをかけただけの下着姿の煉がいた。