不死身の俺を殺してくれ
「じゃあ、私、優とお昼食べる予定だから、またね」
さくらは食堂の入り口で、八重樫に別れを告げると、八重樫は少し照れた様子でさくらを引き留める。
「あ! 待ってください。よければ俺もご一緒してもいいですか?」
「えっと……。優の許可が取れたらね」
子犬のような無邪気な瞳をして言われると何だか断りづらくなってしまったさくらは、今日一日くらいなら一緒に食事をしてもいいかと思い渋々頷いた。
さくらと八重樫は食堂でメニューを選ぶと、受け取った定食のトレイを持ち、優が待っているテーブル席に向かう。
その間にも八重樫は、久し振りの再会だということ微塵もを感じさせない距離感で実に楽しそうに、さくらとの会話を弾ませていた。
八重樫くん、私達と一緒に食事とかして大丈夫なのかな。普通は新入社員同士でご飯を食べて親睦を深めるチャンスなのに。
まあ、男の人と女の人じゃ根本的な考えが違うんだろうけど。
先に社員食堂に来ていた優は、すでに窓際の席に座りさくらの到着を待ちわびていたようで、姿を見つけると笑顔で手招きをする。
「さくら、こっちだよー。……って、どちら様?」
「あー……。お隣の人は八重樫くんです。ほら新入社員の。……一緒にお昼いいかな? って」
優は、さくらの隣にいる八重樫を見るなり、手招きしていた手を止め、小さく首を傾げる。そして、何かを思い出したように言葉を発した。
「あ! 初めまして~」
ち、違う! 優、違うよ!! だから大学時代の後輩だって言ったじゃない。ここで天然を発揮しないでよ。
さくらはトレイを持ったまま狼狽するも、優はさくらのそんな様子に全く気付いていなかった。寧ろ優の平常運転とでもいうべきか。
「初めまして。八重樫です。突然お邪魔してすみません」
内心焦りながら八重樫を一瞥すると、彼は優の態度を然程気にしていない様子で挨拶を返しており、ほっとひと安心する。
テーブル席には、さくらと優が隣同士で座り、さくらの向かい側には八重樫という形で自然に収まった。
そして三人で時々会話を交わしながら食事をとっていると、スーツジャケットのポケットに忍ばせているさくらの携帯が突然震えた。
『じゃがいもがない。帰りに買ってきて欲しい』
受信したメールを開くと、送信者は煉からだった。
じゃがいも……。カレーか肉じゃがを作るつもりなのかな。
食事中にメールの返信をするのは行儀が悪いと思いつつも、二人に断りをいれて返信する。
成り行きでさくらが煉と暮らし始めて一週間と少しが経過した。その間に分かったことは、煉は意外にも料理が出来るということだった。
今まで一人暮らしをしていたさくらは、全くと言っていいほど、自炊生活をしていなかった。
そのため煉がさくらの冷蔵庫の中身を確認したとき、二人はビールオンリーの冷蔵庫の前で気まずさと呆れでお互いに硬直していた。