不死身の俺を殺してくれ
「カレー……」
「カレー?」
回想から引き戻されたさくらは、箸を持ったまま優に問い返され我に返る。
先ほどさくらが無意識にカレーと呟いてしまったのは、あの時実際に煉が作ったカレーが本当に美味しかったことを思い出していたからだ。
本当に料理が出来るとは思わなかった。意外すぎる。
「ううん、何でもない」
二人の話を全然聞いてなかった。何を話してたんだろう。
「営業課は体力仕事だよ。頑張ってね」
「はい。これから、上司の方や先輩達に鍛えてもらいます」
優に励ましの言葉を貰った八重樫は、嬉しそうにハニカミながら意気込みを語っていた。
本当に変わってないなぁ。八重樫くんは。
「それじゃ、お先に失礼します。……さくらさん、また後で」
「え? うん。お仕事頑張ってね」
先に食事を終えた八重樫は、トレイを持ってさくら達から離れていく。
そんな後ろ姿をぼーっと眺めていると、横から不意に頬をつつかれる。振り向くと優は不思議そうな表情をしてさくらを見つめていた。
「何?」
「もう仲良くなったの?」
「違うよ。後輩だって言ったでしょ」
後輩だというのは嘘じゃない。ただ、大学生時代にちょっとした出来事があり、八重樫が一方的に、さくらを慕っているだけのことだ。
というより、優。本当に八重樫くんのこと覚えてないんだね……。
さくらは苦笑しながら、回想で箸が止まり、手つかずのまま残されていた定食を再び食べ始めた。