不死身の俺を殺してくれ
「ただいまー」
さくらが仕事から帰宅し玄関の扉を開けると、途端に鼻腔をくすぐるとても美味しそうな良い香りがした。ケチャップを炒めたような香ばしい匂いだった。
リビングに足を踏み入れると、その香りは更に強まり空腹を誘う。
「ああ。帰ったのか」
「じゃがいも買ってきましたよ。……この美味しそうな香りは何ですか?」
「オムライスだ」
白いシンプルなエプロンを身に付けた煉は、フライパンとケチャップの容器を両手に持ちながら答える。
すでに、さくらの分は完成しているようでローテーブルの上には、ふわとろな卵で綺麗に包まれたオムライスの他にサラダが置かれている。
「わあ! すごい美味しそう」
「当然だ。俺が作ったものだからな」
煉は満足げな表情で答えながら、自分の分のオムライスも手際よく作り上げると、皿に盛り付けローテーブルに運ぶ。
そして、二人分のオムライスとサラダが並んだ食卓を囲む。
こうして二人で食卓を囲んでいると、何だか新婚生活をしているような感覚に陥ってしまうが、煉はそんなことを微塵も思ってはいないだろうなと、さくらは少し寂しくも思ってしまう。
仕事から疲れて帰宅すれば、煉が食事を作り待っていてくれる。
これがもし、本当の恋人同士ならば、これ以上の幸せはないに違いない。
いや違う。私は何を考えて……。
おかしな成り行きとは言え、共に暮らし始めてまだ一週間ちょっとじゃない。煉があまりにも自然に馴染んでいるから、おかしな妄想をしただけ。
「じゃがいも買ってきましたけど、何の料理を作るんですか?」
気を取り直してさくらは、帰りにスーパーで購入してきた、じゃがいもの使い道について問う。さくらの昼休みに、わざわざメールで連絡をしてくるほどだ。何か作りたい料理があったのかもしれない。
「カレーだ。お前が気に入ったみたいだからな」