不死身の俺を殺してくれ
食事をしながらさらりと言った煉の言葉に、さくらは思わず持っていたスプーンを落としてしまいそうになる。
煉がそんなことを言うなんて、思ってはいなかったのだ。
まさに、不意討ちをされた気分だった。
だが煉自身は至って普通、何時も通りの様子で食事を続けている。さくらはその様子を惚けたように眺めていると、煉から怪訝な眼差しを向けられる。
「なんだ」
「あ! えっと……。カレー楽しみにしています」
「ああ、分かった」
何とか上手く誤魔化すことが出来たのか、煉は再び食事をする様子を見て、さくらはホッと胸を撫で下ろす。
しかし、さくらが自分から言い出したこととはいえ、よくよく考えると実は大変なことになってしまったのかもしれない。
何せ相手は未だ素性のよく解らない男。ましてや、初めての邂逅のときは血まみれで路地裏に倒れていたり、三度目のときはアパートを追い出されホームレス状態になりかけていた人物だ。
そんな危険とも言える人物を拾ったさくらは、今さらになって少し不安を覚える。
もし、煉が実は危ない人で、何らかの理由で逃げ回っていたとしたら……?
そして、そんな人物を匿った私はどうなるのだろう、と。
何となく不安に駆られ、食事をしている手が自然と停止する。
「食欲ないのか」
「え?」
「手が止まってる」
煉に言われ我に返ったさくらは、自分の目の前に置かれているオムライスに視線を落とす。
まだ、半分も食べ切っていなかった。
そうだ。今は詮索するのを止めよう。そもそも、本当に悪人ならば、こんな風に夕食を作って待ってくれているなんてことはしないはず。
さくらがそんなことを考えている内に、すでに煉は食事を終えていた。