不死身の俺を殺してくれ
 またか。煉はそう思わずにはいられなかった。さくらの猫耳事件が脳裏に鮮明に甦る。

 別に晩酌が悪いとは言ってはいない。ただ、自分の限界を自覚しろということだ。

 冷蔵庫の前でさくらと煉による仁義なき攻防戦が、今まさに繰り広げられているところであった。

「駄目だ」

「あと一本だけ……」

 さくらは冷蔵庫の前で仁王立ちしている煉を上目遣いに見上げる。すでに酔っている瞳だった。

 そんな潤んだ目をされても俺には効果がない。無意味だ。

 先刻、さくらは夕食のとき何処か沈んだ表情をしていたのを煉は見逃さずにいた。もし、さくらから何か相談や愚痴があるのなら聞くつもりだったのだ。

 だが今は結局、また安酒に酔い完全に仕上がってしまっている。

 無意識に、ため息が溢れる。

「もう寝たらどうだ」

「……けち」

「あ?」

 どうやら、さくらは本当に酔っているらしい。普段は決して言わないような言葉を口にして、煉に対して子供のような悪態をついている。

「そんなこと言うなら、煉さんも飲めばいいのに……」

「いや、俺はいい」

 今日は、なかなかに手強い。何時もなら、そろそろさくらの方が折れて、就寝するはずだが少し状況が違う。

「そういえば、煉さんは年いくつですか?」

「いきなりだな。……二十四だ」

 逡巡して答える。

 煉は自身の本当の年齢を、もう覚えていない。恐らく百歳は越えているだろうが、産まれた年月すら遥か遠い昔のことで忘れてしまった。だから、何時ものように慣れた嘘を重ねる。

「じゃあ、私の一つ下かな」

 四本目のビールを諦めたさくらは、リビングの床で体育座りをして、酒のせいで赤く染まった顔を綻ばせる。

「そうだな」

「煉って呼んでもいい?」

「別に、構わない」

「ふふ、ありがとう」

 煉が頷き了承すると、さくらは子供のようにとても嬉しそうに破顔した。
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