不死身の俺を殺してくれ
たかが、俺の名前を呼び捨てにすることくらいで、そんな風に喜んだ表情を見せられるとは思わなかった。やはり、この女は本当に不思議だなと思う。
今まで知り合ってきた女とは、何もかも勝手が違う。
全てが予想外の展開ばかりで、その度に煉はさくらに振り回され続けている。なのに別段嫌な気はしないのは何故なのか、自分でもよく解らない。
さくらは千歳《ちとせ》とは、真逆のタイプではあるが。と、ふと、そんなことを思ってしまう。
千歳──。
俺は今、何を考えて……。
煉は慌てて脳裏を過る過去の記憶と共に浮かんだ思考を消し去ると、改めてさくらにもう一度念を押す。
「今度こそ寝たらどうだ」
「そうします。おやすみなさい」
「……おやすみ」
さくらはゆっくりと立ち上がると、ふらふらと覚束ない足取りで寝室へと消えていった。
◇
翌日。さくらは休日だった。その為、時刻はもう午前九時になろうとしているのに、一向に起きてくる気配がない。
仕方ない。起こすしかないか。
煉は二人分の朝食の用意を済ませると、さくらの寝室の扉を軽くノックする。
「起きろ。朝だ」
だが、返事はない。昨日の酒酔いのせいで爆睡しているのだろう。
痺れを切らした煉は呆れながら『入るからな』とひと声かけてから、さくらの寝室に足を踏み入れた。
そして案の定、顔まですっぽりと毛布を被り幸せそうに眠っているさくらが視界に入るが、気にせずに無慈悲に言葉を投げ掛ける。
「起きろ」
「んー……。あと……もう、ちょっとぉ……」
さくらは、そう言うと更に毛布を巻き込みながらベッドの上で小さく丸まっていく。休日の朝は、とことん寝起きが悪いらしい。
「……朝飯が冷めるがそれでもいいんだな」
「……やだ」
「なら起きろ」
煉の有無を言わせないその一言で、ようやくさくらは毛布から顔を出し、まだ眠たそうな表情をしながら『起きます……』と渋々起床した。